農政無策
鈴木憲和農相のコメ政策の基本は「需要に応じた生産」である。ここには、需要は天から与えられたもので、人為では何とも為し難い、という考えがある。
だから、人為である生産は、それに順応するしかない、順応すべきだ、というのだろう。需要という天の声を聞かずに、天に逆らって、人為で勝手に減反したり増反したりするから、米価が暴落したり暴騰したりするのだ。天罰が下ったのだ。そのように言いたいのだろう。
だが、そうではない。ここには、米価の暴騰、暴落の責任を農業者に押し付けようとする陰湿な謀略がある。責任は政治が負うべきものなのだ。逃げようとしても、逃げられない。
需要は天与のものではない。人為で作り出すものである。コメについていえば、コメには、主食用だけでなく、米粉用や飼料用の膨大な需要がある。この膨大な需要に分け入って、開拓しておけば、迫り来る世界的な食糧危機には、主食用に転換できる。
これは、国家の存立を支える食糧安保のためである。だから、これは、政治が負うべき最重要の責任である。
だから、米価が生産者にとって採算に合わないのなら、人為である政治が乗り出して、政治の責任で、採算に合うようにすべきなのだ。そうして、生産量を確保すべきである。
また、米価が消費者にとって高すぎるのなら、政治の責任で、下げるべきものである。そうして、充分に消費できるようにすべきである。
だが、政治は、その責任を果たしていない。鈴木農相がいう「需要に応じた生産」というコメの基本政策は、政治がその責任から逃げるためのものである。無責任な農政スローガンである。恥知らずで、逃げの農政スローガンである。これは、直ちに捨てねばならない。
政治は、退路を断つ覚悟を持たねばならない。
ここで、いきなりトランプ大統領を引き合いに出すが、彼は日本に25万トンのコメの追加輸入を約束させた。これはいったい何なのか。
彼は、人為で米国のコメを日本へ輸出する、という需要を作り出したのである。彼は天の領域である需要に土足で踏み入ったのか。天を畏れずに、天に逆らって、需要を作り出したのか。そうではない。米国の国益に沿った人為の輸出なのだ。天に逆らったから、天罰が下ったか。そんなことはない。
これに引きかえ、鈴木農相はどうか。
鈴木農相が為すべきことは何か。
それは、あちこちへ行って、愛嬌を振りまくことではない。「需要に応じた生産」を、かなぐり捨てることである。そうして、迫り来る世界食糧危機に備えて、需要を拡大することである。そうして、無責任農政から脱出することである。
もしも、小麦の輸入が途絶したらどうするのか。平時からコメを増産し、需要を拡大しておいて、非常時になったら小麦に代替すればいいのである。
このことを、農政の基本に据えるべきである。
当面する政策は、消費者のコメ離れを阻止するほどに米価を下げ、農業者の離農を阻止するほどに米価を維持して、食糧安保を万全にすることである。
いま、早急に為すべきことは、そのための法令と制度の整備である。
人口減少などによるコメ需要の減退に対して、為す術もなく呆然としてはいられない。米粉や飼料など、コメの新しい膨大な需要を開拓することである。そして、迫り来る世界食糧危機を克服するための農政を、早急に確立することである。
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年末が近づきました。明日からは、天の計らいで、明るい昼の時間が長くなります。皆さん、よい新年を。
.( 2015.12.22 JAcom から転載 )