北東亜細亜共同体論

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小泉新農相への期待と懸念 (2025.05.23)

 

小泉新農相への期待と懸念 

 

 小泉進次郎氏が新しい農相に就任した。

 就任の挨拶で、コメ担当大臣と自称した。小泉農相の米価高騰問題を解決する熱い意気込みが伝わった。これは、前日に石破 茂首相の、米価を早期に3、000円台に下げる、と明言したことを受けて、それを実現する決意を表明したものだろう。

 その後、小泉農相は、さらに意欲的な目標として、6月上旬には、2、000円に下げることを公言した。先々週の平均米価の4、268円の半値にすることになる。正気の沙汰か、と疑う人は多いだろう。だが、やれば出来るだろう。これを中長期的な目標にするようだ。

 政治の市場への直接介入である。暴力的介入と言っていい。コメ離れを防ぐためだから、それでいいのだ。

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 小泉農相は、この考えの根底にあるものを、同時に語っている。それは、

  • 消費者のコメ離れを防ぐ
  • 生産者の農業離れを防ぐ

 ここには、主食のコメは国内自給率を上げて、外国からの輸入に依存しない、そうして、食糧安保を強固なものにする、という断固とした政治哲学があるように思える。

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 しかし、その一方で懸念がある。3つの点を指摘しよう。

 1つ目は、協同組合に対する不信である。

 2つ目は、コメの輸出に対する認識不足である。

 3つ目は、備蓄米が払底した時にどうするか、である。

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 1つ目は、農協など協同組合に対する不信である。

 協同組合は、先進国ではどこでも法律で認められている。どの国でも、協同組合に対する独占禁止法の適用除外を法制化している。

 これは、大資本が小資本や小規模業者や労働者を、直接的に、あるいは、間接的に搾取することの不公正を是正するためである。

 この考えは、市場原理主義とは相容れない。市場原理主義は、こうした搾取を容認している。それだけでない。この搾取を助長することが、公正なことだ、と考えている。

 だから、協同組合は市場原理主義政治に抵抗する組織だ、と言っていい。

 協同組合を否定する市場原理主義では、農協を否定する市場原理主義農政では、農業者の農業離れを防ぐことは出来ないだろう。

 この点についての、小泉農相の政治哲学が見えてこない。

 農協を批判するのはいい。だが、その批判は、協同組合を否認するための批判なのか。それとも、協同組合をより良くするための批判なのか。

 農協には、組織のどこでも陥りやすい官僚的不効率がある。それを所管する農相が批判するのは、大いに歓迎する。しかし、市場原理主義に基づく、農協潰しを目指す批判なら歓迎しない。

 農協の組合員数は1、000万人である。その家族など、組合員数の数倍の人たち、また生協など協同組合の組合員、家族たちは、全員が協同組合を信頼している。信頼しない人は、いつでも脱退できる。協同組合に関わる人の全員は、小泉農相の協同組合についての政治哲学を、じっくり聞きたいと思っている。

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 2つ目は、コメの輸出である。

 小泉農相は、減反を廃止してコメを増産する、という。そして、平時が続きコメが余ったら輸出する、という。

 これは、32年前に「攻めの農政」と名付けて、食糧安保の主柱にしてきた政策である。威勢はいいのだが、32年間、失敗を重ね続けてきた政策である。

 失敗の原因は何か。

 下の図が、その全てを表している。

 

 

 この表は、資料の https://vietfood.org.vn/gia-gao-xuat-khau-cua-cac-nuoc-tren-the-gioi-ngay-23-05-2025/  のうちの、ヴェトナムとタイを抜粋したものである。

 ここから分かることは、

  • ベトナムやタイのコメの輸出価格は平均すると、5kg当たり276円である。これはベトナムやタイの国内米価とみていい。一方、先々週の日本の平均米価は4、268円である。つまり15倍である。これでも輸出できる、というのが、コメ輸出論という空論である。
  • また、砕米が5%混入していても、25%混入していても、米価はそれほど変わらない。何年産かも分からないし、産地もわからない。つまり、ヴェトナムやタイの人たちは、それらを気にしない。砕米の混入率だけを気にしている。このように、コメに対する味覚は、日本人の味覚と全く違っている。

 以上のように、日本のコメはヴェトナムやタイの人たちからみて、それほど旨くもないし、安くもない。それどころか、とんでもなく高い。それでも日本のコメは輸出できる、というのがコメ輸出論である。事実に基づかない、頭の中にあるだけの幻想である。

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 3つ目は、備蓄米が払底した場合である。

 いま、在庫米は、60万トンしかない。今日30万トン放出する予定だから、明日以後は30万トンしか無い。これが無くなってしまえば、もう市場に供給できない。そうなれば、外国から輸入するしかない。このことを、食糧安保を重視する国民に納得してもらわねばならない。

 これが至難の業であることは、下の図が示している。

 

 

  この図は、新聞の世論調査(朝日HP、2025.05.18)によるもので、「輸入するコメの量を増やさないほうがよい」と答えた人の数は、67%という圧倒的な大多数になっている。

 コメが国内に無いからといって、また、緊急避難だからといって、外国からコメを輸入することは、農業者の農業離れを加速し、食糧自給率の深刻な低下を招き、国民の食糧安保に対する危惧を深めることになる。

 それを解消するには、政府のコメ政策の、根本的な、そして恒久的な対策、つまり、法制化が必要である。

 最後に強調しておこう。生産者米価を半値にしたままでは、農業者の農業離れは防げない。急速に進む。

 二重米価制の出番である。

(2025.05.26 JAcom から転載)

 

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