北東亜細亜共同体論

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東洋の叡智は甦る━まことに悠悠たり、今の月は、かつて古人を照せり ・・・  石部 顯 (国際心理研究所代表) (2021.08.05)

 

もし、時空を超えて、夢の中でも、昔、中国に生きた先人に出会えたなら、感謝の気持ちを伝え、語り学びたいと思う古人は多い。詩人では李白、孟浩然。政治家・軍師では太公望呂尚、文王、范蠡、張良、楽毅、諸葛亮、孟嘗君。思想・宗教家では老子、荘子、伏羲、羅什、慧思、智顗、不空、臨済、王陽明。書家では王義之、顔真卿。歴史家としては司馬遷━。

かつて日本人の多くは、幕末まで、中国の古典、詩・歴史・思想書を素読し、味わい、人生の試練を乗り越える智慧として心中に結晶させてきた。例えば、西郷隆盛は、いま(幕末・明治維新の混乱期に)政治の世界で起きていることは、『春秋左氏伝』に書かれてあるとさえ言っている。中国より伝来した「気」の思想に基づき、自然の力に調和して天地人の力を引き出すよう建設された都市━京都は、1200年の時を超えて今も栄え、東京は、世界一のメガ・シティとなり発展を続けている。1400年前、聖徳太子が建てた法隆寺・五重塔に使われた免震構造の智慧は、いま世界の高層建築(東京スカイツリー等)に生かされている(世界最古の木造建築・法隆寺は現代の技術では造れない)。しかし、西洋近代化を経て、戦後、日本人は東洋の叡智に学ぶことを忘れ、自然から遊離し、存在の根を見失い、とりわけ90年代より目先・自分・金のことに心奪われ、先知蒙昧にして自ら危機を招くに至っている。

日本と中国の友好を想うとき、私たち日本人としてはまず、古代より、いかにアジア・中国の思想・文化から恩恵と刺激を受け、それらを咀嚼して日本独自のアイデアと文化を創造してきたのか、━豊かな意識と文化の交流、友情の歴史を顧み、そこに孕まれた智慧を見出し自覚することが必然的に未来のヴィジョンを描き、恩恵の自覚に基づいた信頼関係、日中友好の新たな道を切り開く礎になると思う。120年ほど前、岡倉天心は、「アジアは一つ」と言った(『東洋の理想』)。しかし、何において、「一つ」なのか━。それは、究極の普遍的真理を探求する精神において、アジア同胞の魂の神髄は、等しく「一つ」であると天心は言ったのだ(西洋の科学技術探求に比し)。今、多様性がもつ潜在力を引き出し、調和ある「持続可能な社会・共同体」を実現するために、西洋と東洋の叡智を統合し、新しいパラダイム(ものの見方・考え方)を築くべき時代に入ったと言える。ぜひ、中国の心ある同志の皆様には、古代中国より連綿として汲み上げられ伝承されてきた世界に通じる普遍の法則・真理を、人類の未来のために再発見し、甦らせ、世界に伝え、文化的貢献を果たしていただきたいと切に願っている。その道にこそ、「北東亜細亜共同体」の礎が拓かれるものと思う。

科学の最先端、物質の究極を研究する量子力学の創始者、ノーベル賞受賞者のニールス・ボーアは、理論の枢要となる「相補性」のアイデアを、中国の陰陽思想(『易経』)より得たと明言し感謝している。その他、自然科学のみならず社会・人文科学においても、西洋最高の知性が、すでに多く東洋思想に学び、行き詰まった西洋思想・科学の打開と進化に役立ててきているという厳然たる事実がある。私たちが、足元にある東洋の叡智・至宝に気づかず、未だ欧米の思想・科学に無思考に追従し、古い枠組みの中で汲々としている様は哀しく、旧来の陋習を破り立ち上がった日中の先人の遺志を継ぎ、自律、脱皮し、東洋の叡智をもって西洋と交流し、世界の平和と深化(進化)に貢献する思想と科学を生み出す時が来ていると思えならない。最後に、敬愛する中国の古人の言葉を感謝とともに掲げさせていただきたい。一言一句でも、皆さまの励みや慰め、自戒ともなれば幸いである。

・含気(がんき)の類、ことごとくその志を得んことを願う。天地は神明にして、物と推移す。事の先とならず、動いてすなわち随う。天威を扶け成す。地を広めんと務る者は荒み、徳を広めんと務る者は強し。己を正して人を化す者は順なり。君子は常に懼れて道を失うことを敢えてせず。全勝は闘わず。天下を利する者は、天下之を啓き、天下を害する者は、天下之を閉ず。天下は、一人の天下に非ず、乃ち天下の天下なり。  ━『三略』『六韜』

・常を知らざれば、妄作して凶なり。常を知れば、容なり。道に同ずる者には、道もまたこれを得るを楽しむ。失に同ずる者には、失もまたこれを得るを楽しむ。信足らざれば、すなわち信ぜられざることあり。不善人は、善人の資なり。その資を愛せざれば、智ありといえども大いに迷う。聖人は常に無心にして、百姓の心を以て心と為す。慈なるがゆえに能く勇。慈は、以て戦えば則ち勝ち、以て守れば則ち固し。天まさにこれを救わんとし、慈をもってこれを衛る。哀しむ者勝つ。                      ━『老子』

・彼を知りて己を知れば、勝すなわちあやうからず。地(遠近・険易・広狭・死生)を知りて天(陰陽・寒暑・時制)を知れば、勝すなわち全うすべし。これ(道・天・地・将・法)を知る者は勝ち、知らざる者は勝たず。戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり。善く攻むる者は九天の上に(天界の上の上で)動く。微なるかな微なるかな、無形に至る。神なるかな神なるかな、無声に至る。故に能く敵の司命を為す。進んで名を求めず、退いて罪を避けず、ただ民を是れ保ちて而して利の主に合うは、国の宝なり。    ━『孫子』

・天道は盈(満)るを欠きて謙に益し、地道は盈るを変じて謙に流れ、鬼神は盈るを害して謙に福し、人道は盈るを憎(悪)みて謙を好む。窮すれば則ち変じ、変ずれば則ち通じ、通ずれば則ち久し。天の道を立てて陰と陽といい、地の道を立てて剛と柔といい、人の道を立てて仁と義という。窮理尽性(道理を究め、本性を発揮し尽くして)、以て(天)命に至る。

━『易経』

・我が志は刪述(さんじゅつ)にあり、輝(ひか)りを重ねて千春に映(かがや)かん。

荘周は、胡蝶を夢み、胡蝶は、荘周と為る。一体こもごも変易し、万事まことに悠悠たり。今の人は見ず、古時の月。今の月は、かつて古人を照せり。         ━李白

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