北東亜細亜共同体論

一覧へ戻る

コメのコスト指標作成委員会の責任放棄 (2026.04.13)

コメのコスト指標作成委員会の責任放棄

●食糧安保政策の無視
 農水省は、米のコスト作成委員会、なるものを作り、先週7日に「米のコスト指標」なるものを発表した。いったい何のための指標か。
 以前、東京農大の初代学長だった横井時敬先生が言ったことがある。「農学栄えて農業亡ぶ」、と。いいかげんな農学が盛んになって、農業が亡んだら本末転倒だ、という意味だろう。実態に基づかない、論理を無視した、空疎な議論に対する戒めの言葉だろう。
 この訓戒を、この委員会の委員諸兄姉に噛みしめてもらいたい。
 ここには、大きな問題と、小さい問題がある。
 大きな問題としては、食糧安保という農政の基本政策との関わりが、全く見られないことである。その結果、消費者のコメ離れと農業者の離農の流れを食い止める視点が全く無い。これは、政治が負うべき食糧安保の責任を、放棄することに加担するものである。
 また、小さな問題としては、余りにも拙速ではなかったか、というものがある。

●2割が赤字・・・それでいいのか
 比較的に小さな問題から、1つだけを取り上げよう。それは、コスト指標を算出する場合、どんな農家を対象にするか、という点である。
 委員会で一部の人は、全農家の平均コストをコスト指標にすべきだ、と主張した。このコストが適正だ、というのである。このコストを償える米価が適正な米価だ、というのだろう。この米価になったら、どうなるか。
 これでは半分の農家がコスト割れになって赤字になってしまう。コメの場合、偶然が原因で、去年は黒字で今年は赤字、というコスト構造になっていない。経営規模によってコストは決まる、というのが実態である。だから、半分の農家は赤字になって離農することになる。
 さすがに、この主張は退けられた。そうして1~3ha の農家の平均コストをコスト指標にした。農業者にとって最悪の事態は、避けられた。だが、それでいい、という訳ではない。それに続く推論に、同様な問題がある。
 1~3ha の農家の平均コストをコスト指標にすれば、1ha 以上の農家は黒字になり、生産を続けられると推論しているようだ。1ha 以下の農家の生産量は全流通量の1割である。だから、この分だけが赤字になる、という。
 だが、ここにも同様な推論の誤りがある。1~3ha の農家の生産量は2割であるが、その半分の1割も赤字になるのである。つまり、合わせて2割が赤字になるのである。
 これは、決して少ない割合ではない。農家の脱農は、これまで以上に加速されるだろう。

●問題は生産過程にある
 これよりも大きな問題がある。それは、いったい何のためにコスト指標なるものを作るのか、という問題である。それは 農業者の離農の流れをどうするのか、止めるのか、放置するのか、という問題である。そしてそれは今、武力が支配する世界の中で、国家安全保障にとって重大な食糧安保に関わる問題である。
 この問題について、委員会は何も言わない。コメの取引の適正化をはかり、そのために農水大臣が指導・助言を行うというだけである。そのためには、立入検査も行うという。これは、流通過程の活性化を阻むものである。市場機能を阻害するものである。それだけではない。
 問題は、なぜコストの指標を作るのか、いう点にある。この問題の中心は、流通過程にあるのではない。生産過程にある。問題の根源は流通コストにあるのではなく、生産コストにある。この認識が委員会に無い。
 以前、筆者が若かった頃だが、近藤康男先生に流通問題についての実態報告書を見て戴いたことがある。先生の批判は「流通問題は生産過程にまで踏み込まないと、その深奥は分からない」、というものだった。それ以後、私はこれを座右の銘の1つにしていて、いっ時も忘れたことはない。

●生産者の離農を止めよ、消費者のコメ離れを止めよ
 委員会は、現在の米価水準が適正か否か、消費者米価はどうか、生産者米価はどうか、それが、食糧安保にとってどうか、この点について、何も言わない。政治は、消費者米価は安く、生産者は高く、を常に考えねばならない。そうして、食糧安保を万全なものにしておかねばならない。
 何故、こんなことになったのか。委員会は、現在の米価水準が適正と考えているからだろう。それは、米価に政治が介入しない、食糧安保のためにはビタ1文も出さない、という政府の宣言に加担したと考えるしかない。
 これでは、生産者の離農が続き、消費者のコメ離れが続き、食糧安保は危殆に瀕するだろう。国家存亡の危機である。
 現在の米価水準は、決して適正ではないのである。

. ( 2026.04.13 Acom に転載予定)

ページトップへ戻る