小泉農相の減反廃止は亡国への道
●市場原理主義農政は協同組合思想の対極にある
小泉進次郎農相は、コメ政策を転換して、減反を廃止し、増産に切り替えるのだという。暗い減反を止めて、明るい増産に方向転換するという。いかにも新鮮な農政転換のように聞こえる。そのためにどうするか。大規模農業にし、最新の技術を駆使したスマート農業を推進て、コストを下げ、増産して、増産したコメは輸出するのだという
だが、ここには市場競争が何より大事で、勝った人だけが生き残ればいい、という市場原理主義がある。負けた人は消えて失せろ、という思想である。この思想は、非人間的で、暗くて冷たい思想で、農協や生協など、協同組合思想の対極にある。
●減反廃止は2段構えの落とし穴で地獄へ
小泉農政の減反廃止論には、大きな落とし穴が2つある。
1段目の落とし穴は、大規模スマート農業の偏った推進にある。平地農村はそれでいい。だが、大規模スマート農業ができない中山間地をどうするのか。市場原理主義らしい競争を前提にしているから、中山間地のコメ作りは断念するしかない。
そうなれば、コメの供給量は激減し、米価が暴騰するだろう。そして消費者のコメ離れが急速に進むだろう。その結果は、主食のコメが輸入小麦で作ったメンやパンに代わり、主食の座を奪われることになる。それは、食糧自給率のいっそうの低下であり、食糧安保の危機の深化である。そして、これは亡国へ向かう道である。
2段目の落とし穴は、輸出の振興である。これは、市場原理主義らしく国際競争に勝って、輸出ができるという、元気のいい、しかし、カラ元気の幻想である。
このコメ輸出政策は、過去32年もの長い間、失敗し続けてきた政策である。今度こそ成功する、というのだが、その根拠はない。だから、今度もまた幻想で終わるだろう。輸出できなかったコメが国内市場に溢れ、米価が暴落し、農業者の離農が急速に進む。それは、食糧自給率のいっそうの低下であり、食糧安保の危機の深化である。その先は暗い奈落で、その底に地獄が口を開けて待っている。
このように、小泉農政の減反廃止は、市場原理主義を前提にしているゆえ、亡国へ向かう農政である。
●減反廃止を次善の策から最善策へ
だからと言って、農業者は減反をこれまで通りに続けよ、と言っているわけではない。
これまでの減反は、米価の下落を避けるための次善の策だった。これを最善の策に昇華しなければならない。
そのためには、減反を廃止する前に、市場原理主義の悪弊を矯正するための農政を固めて、それを法制化すればいい。矯正する道はある。その道を進めば、その先には、みどり豊かな農村が待っている。
そのために為すべきことは、減反を廃止して増産する前に、十分な備蓄を行うことを法制化することである。いま、政府は備蓄米を10万トンしか持っていない。僅か5日分である。これで国家備蓄といえるか。
十分な量の備蓄米を確保するための減反廃止と増産なら、最善策に近づけられる。
そうして、備蓄の役割を果たしたコメはパンやメンや家畜の飼料にすればいい。そのための法制化を行えば、減反廃止政策を、最善策に、さらに近づけられる。
これらを着実に実施すれば、日本の食糧自給率は飛躍的に上がり、瑞穂の国が復活するだろう。
.(2025.08.18 JAcom から転載)